従業員が「うつ病」で休職に!そのとき会社はどうすべきか?
ある日突然、従業員から「うつ病で休職したい」と申し出があった。
多くの中小企業の社長にとって、それは想定外の出来事です。
業務への影響、他社員への波及、そして「会社として何か責任があるのでは?」という不安。
このような事態に直面したとき、まず求められるのは、感情的な対応ではなく、法的・実務的に適切なステップを踏みながら、従業員の心身の状態に配慮することです。
状況の原因を急いで特定するよりも、まずは冷静に、社内の制度に沿った対応を進めることが重要です。
- 診断書が提出されたら、原則として休職を認める
- 就業規則に基づいた手続きを淡々と進める
- 同時に、その社員がなぜメンタル不調になったのかを会社として内省する
感情論ではなく、労務リスクと向き合う冷静な判断が求められます。
長時間労働とうつ病、その因果関係は「立証」され得る
厚労省が定める「過労死ライン」は、月80時間以上の時間外労働(残業+休日労働)。
さらに月100時間を超えると、健康障害との因果関係が強まるとされています。
これは単なる指標ではなく、労災認定や訴訟リスクの判断基準となる、いわば「法的ライン」です。
つまり、
- 従業員がうつ病になった
- その前後に長時間残業が常態化していた
- 労働時間が記録として残っている
この3点が揃えば、会社側の責任が問われる可能性は十分にあるのです。
また、労災が認定されれば、企業は「安全配慮義務違反」を問われ、労働基準監督署から是正勧告を受けることもあります。
損害賠償請求に発展すれば、金銭的負担だけでなく、企業の信用にも影響を及ぼします。
メンタル不調は個人の問題ではなく、組織としての体制が問われる時代に突入しているのです。
「36協定を出していたから大丈夫」は通用しない理由
36協定(時間外・休日労働に関する協定届)は、残業を合法に行うために必要な労使合”です。
しかし、これを提出していても以下のような状態であれば、
- 法定上限(月45時間)を常態的に超えていた
- 特別条項の範囲(月100時間未満)を超えていた
- 協定書に記載された条件を現場で守っていなかった
これらはすべて「36協定違反」として扱われ、企業の責任が問われる根拠になります。
つまり、36協定は残業免罪符ではなく、「守って初めて意味があるルール」なのです。
実際に、36協定を提出している企業の中でも、その実態を把握せず「書類を出しているから問題ない」と誤認しているケースが少なくありません。運用体制の不備や、そもそも特別条項の内容を社長自身が理解していないケースもあるため、形だけの協定はリスクでしかないのです。
うつ病と36協定違反が重なると、何が起こるのか?
この2つが重なると、法的にも経営的にも深刻なダメージが発生します。
- 労災認定 → 企業の安全配慮義務違反が問われる
- 損害賠償 → 過失が認定されれば数百万円単位の支払いも
- 社内外の信用毀損 → 離職連鎖やSNSでの企業イメージの悪化
しかも、「うつ病で訴えられた」は目立たなくても、労基署の是正勧告・指導は記録として残るため、今後の行政対応にも影響を及ぼします。
加えて、訴訟リスクだけでなく「企業としての魅力」にも影響を及ぼします。
うつ病による離職が続けば、採用力は落ち、離職率の高さが外部にも知られてしまう。
つまり、目に見えない「人材ブランド」の低下につながるのです。
社労士からの提案:「守りの協定」ではなく「攻めの体制」を
36協定は「とりあえず出しておく書類」ではありません。
- 長時間労働の抑止力になるよう、運用を設計する
- 勤怠と連動し、上限超えをリアルタイムで把握する
- 従業員の変調を早期に察知し、対応マニュアルを整備する
これらを整えることで、初めて「企業としての安全配慮義務を果たした」と胸を張れる体制ができます。
社労士はそのための仕組みづくりを提案・伴走できる存在です。
加えて、36協定を見直すだけでなく、「メンタルヘルスに関する社内の教育」や「ストレスチェックの活用」など、人を守る文化づくりそのものが求められている時代です。
書類で終わらせず、経営戦略の一部として人を守る体制をどう築くか、そこにこそ社労士の価値があります。
まとめ:うつ病は「個人の問題」ではなく「会社の責任」になる時代
「うつ病になるなんて、本人の性格では?」
そうした時代錯誤の感覚が、会社を法的に追い込む可能性があります。
メンタル不調が労務トラブルになる時代において、会社が問われるのは制度と記録です。
うつ病と36協定。
この2つが交差したとき、「知らなかった」「つい忙しくて」は通用しないのです。